映画「人間失格」@シネマナビ342

文体を具現化する映像の力

監督:荒戸源次郎
配給:角川映画

ストーリー●津軽の裕福な家に生まれ、貴族議員を父に持つ大庭葉蔵(生田斗真)。
平凡な家族愛に恵まれなかった孤独な少年時代は、
はにかみ屋の横顔の下に御しがたい恐怖の自画像を生み出す。
人並みはずれたコンプレックスとプライドのはざまで、
葉蔵は自分の人生を確立できないまま酒と薬に溺れ、
女たちの間をさまよっていく。

「人間失格」は、太宰治のファンであれば必ず読む代表的な初期の作品で、
太宰の自伝的な小説として知られる。
葉蔵を通してなされる過激な心情の吐露は、
特異なエピソードの連続でありながら、若者にありがちな心の空洞を
鮮やかに代弁し、熱狂的なファンを獲得してきた。
しかしこの小説の命は、
たたみかけるような文体の迫力、ざらついた生の肌触りであり、
はっきりした起承転結の印象は残りにくい。
名作でありながら、今まで映画化・ドラマ化がなされなかった所以だ。
荒戸監督は、原作を忠実になぞることよりも
一つひとつの文章から汲み取れる心象を大切にし、
それらを美しい映像に置き換えて成功している。
原作にない中原中也(森田剛)との場面も秀逸で、
古書店先でのやりとり、トンネルの中に降りしきる赤い花びらなど、
文学的で美しい映像が太宰の世界をより深めていく。
2009年は太宰治生誕百周年で、さまざまな作品が映画化されたが、
これこそ太宰を読みつくし愛しつくした人間の作った映画といえよう。

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