悪夢再び・熊川哲也負傷で「海賊」降板

テレビ他、昨夜からのニュースでご存知の方も多いと思いますが、
熊川哲也が「海賊」公演のアリ役を降板しました。
初日前日のリハーサルで右ひざに違和感を覚え、診断の結果、半月版損傷とわかりました。
手術の必要があるということです。
昨年のじん帯損傷に比べると短期間で復帰できるケガ、ということです。

……もう、へこみましたよ……。

「海賊」初日の幕があく1時間ちょっと前、午後5時ごろから、HPで告知が始まったらしいのですが、
私は朝から家を出ていたこともあり、
まったくノーマークで文京シビックホールに到着。
入り口やロビーがものすごく混んでて、係の人が叫んでるし、
リハがずれこんで開場が遅れたのかな、などと軽く考えていたのですが、
いつもなら袋の中に入れて入ってくるキャスト表が1枚ずつ手渡し。
でもそれはキャスト表じゃなくて、
今回の降板のお詫びと公演全体のキャスト変更告知だったんです。

ここへ来て、
ようやく異常なロビーの雰囲気の原因がわかった。
この場で払い戻しの手続きをして帰る人もいたのねー。

私の席は1階13列の右端。
絶対完売だったはずなんですが、そこより前の席でも、少し空席がありました。
でも、ガラガラというわけではなく、
1階は8割は埋まっていたと思います。(2階はかなりあいたという情報あり)

公演に先立ってまずTBS事業部の人が幕の前に立ち、

・昨日のリハーサルで右ひざに違和感を覚えた、という経緯、
・ぎりぎりまで調整した結果、告知が遅れてしまったことへの謝罪、
・熊川哲也本人も、とても残念に思っていること
・昨年のケガよりは深刻ではなく、復帰まで2,3ヶ月と踏んでいるので、
「コッペリア」には間に合うのではないか、と思っていること
・しかし、手術は必要とということ、
・熊川降板を知ってなお、客席に着いてくれたことへの感謝、
・その気持ちに応えるべく、出演者は、いい舞台を見せられるよう結束していること、
・舞台が始まってしまうと払い戻しはできないので、今からでも希望する人があれば対応すること、

などを、神妙な面持ちで説明、謝罪しました。

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従来の予定では、熊川→アリ、グルナーラ→荒井祐子でしたが、
アリが遅沢佑介、グルナーラは、SHOKO(中村祥子)に変更。

私は荒井祐子のグルナーラが大好きですから、その意味でもちょっとがっかりしましたが、
中村祥子も見たいダンサーの一人なので、
「荒井グルナーラは見たことがある。見たことないバージョンが見られる」と、
いい方に考えることにしました。

でも、
「降板」はともかく、熊川がまた右ひざをケガして、手術をする、というニュースは、
かなり衝撃的でありまして、
そんな話を聞いてすぐに、「海賊」満喫モードに気持ちを切り替えられるほど
私は楽天家ではありません。

あの、昨年初めて見た時はのっけから引き込まれた冒頭の男たちのシルエットだって、
なーんにも感動が沸き起こってこない…。つらかったです。
正直最初の30分くらいは、うつろな感じで舞台を眺めておりました。

遅沢くんは、長身なので、
アリ役で羽根を頭につけると、キャシディのコンラッドより背が高くなります。
熊川・橋本・ブーベル、と今までKバレエでアリを務めた人は、みな背が低い方ですから、
最初はその「バランス」にちょっと面食らいました。

「バランス」という意味では、
奴隷市場でのランケデム(輪島拓也)とグルナーラ(SHOKO)のパ・ド・ドゥもイマイチ。
ポワントで立たなくったって、輪島さんよりSHOKOの方が大きいんですから。
SHOKOさん、長身なだけでなく、筋肉質ですので、リフトは大変そうでした。
ものすごく長い手足をどうしたもんか、彼女も空中での体勢維持に苦労していたもよう。

ただ輪島さん、
ソロは、ものすごくよかった。
彼は初演の時より、ぐっと安定感が増し、表現力も豊かになって舞台をひっぱります。
キレのよいパフォーマンスが音楽と溶け合って、
このあたりから、ようやく「海賊」らしいワクワクさが甦ってまいりました。
(彼は、三幕のソロもよかった。昨夜は、彼が一番高く跳んでいたのでは?
宙で止まって見えるような、魅力的なジャンプでした。)

それに触発されるように、
SHOKOのソロも見事。
今度は長い手足が魅力的に大きな空間を造り上げ、
よく外旋する股関節は、脚を上げたときに高さだけでなく、
どっしりと地に根を張っているがごとき安定感と重心も感じさせてゆるぎない。
独特の雰囲気を醸し出せる、日本人離れしたダンサーです。

ソロの後のコーダに入ると、二人の息も合ってきて、「アンバランス」も気にならなくなりました。

1幕の幕切れ、あの熊川が昨年負傷してしまったランケデムとアリとのかけあいのシーンも、
遅沢と輪島が競うように演じて小気味よかったです。

二幕のグラン・パ・ド・トロワは、お約束通り、掛け値なしに昨夜の白眉でした!
とりわけ、松岡梨絵のメドゥーラ。
圧倒的に輝きまくりです。
ステージをしょって立つプリマ、という誇りとメンツが、柔かい表情と表現の中にも感じられ、
特にソロでは音楽の緩急をうまく使って自由自在。
遅い回転、早い回転、切れのある回転、粘着性のある回転、次から次へパーフェクトに繰り広げます。

遅沢もキャシディも、ソロは完璧に近い出来。
このグラン・パ・ド・ドロワはオーケストラもよく音色を響かせ、全体が締まって出色の舞台だった。
玉に瑕が、コーダ部分での遅沢アリの回転。
松岡メドゥーラが機械のように正確かつ工夫満載のフェッテをこれでもか、と見せ付けているだけに、
彼は疲れて最後の最後に失速してしまったのが、残念。
やはり経験不足か。気持ちはあるのに、乳酸の増加に勝てなかった感じ。

今回の「海賊」公演、
熊川降板で頭真っ白は私を初めとする観客だけでなかったのか、
舞台上も、一人ひとりの踊りとしてのパフォーマンスはよかったけれど、
そのパフォーマンスの数々を有機的に紡ぎ上げ、魅力を増大し、
全体の物語性を感じさせる演劇性は、それほど感じられなかった。
セリフが聞こえてこない。
何か言っているのは見えるけど、音は出ていない。そんな感じ。
ダンスって、演劇なんだとつくづく思う。

その中で、ビルバント(ビヤンバ・バットボルト)は出色。

ビルバントはこの「海賊」の中では一番の卑怯者、っていうか、
アリの対極にいるイヤな奴。
でも、ものすごーく感情移入できた。

コンラッドもアリも、正義漢ぶってるけど所詮は「海賊」です。
キホン、お行儀が悪く、ワルい奴らなんです。
だから
「お頭にはメドゥーラがいるでしょ、オレが奴隷女を抱いて何が悪い?」は海賊のジョーシキだし、
「あんたがメドゥーラの救出にかまけている間に、
女たちと財宝をここまで持ってきたのは俺だ、だからこれは俺のものだ。
あんたが勝手に解放したり、人にやったりする権利は、ない!」も、ごもっとも。
そう、
こういうセリフが聞こえてきたんですよねー。
二幕で人物造形をしっかりしやってくれたから、
三幕の彼の最期には、思わず「かわいそー」と思ってしまうほどでした。
銃や剣を持っての踊り(二幕)も、そのステップが非常に軽やかでスピード感あふれ、
よかったです。

こんなに持ち上げておいて何ですが、公演中はずーっと杜海だと思って見ていて、
去年よりぐーんといいビルバントだった!などと思っていたた私。
ごめんなさい(汗)。

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Kバレエ公演、8月3日まで続きます。
8/1は熊川の日ではないので、変更なし)*訂正しました。すみません。
遅沢くんは、アリで出ずっぱりです。
精神的重圧もあるでしょうが、体力的にもキツイでしょう。
ケガにつながらないよう、気をつけてほしいです。

*「コッペリア」に関する情報は、8/12以降発表する、とのことです。

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